『野良の目、街の奥。 ーうつされた人間模様ー』

野良猫の目線で人間模様を見つめる連作シリーズ 『野良の目、街の奥。 ーうつされた人間模様 ー』を連載中です。

第48話 小鳥の檻 

新興住宅地の一軒家の前、

小道の砂利を踏む音を忍ばせながら、

今日も私は屋根の上から見下ろしていた。

 

 

庭には芝が整然と刈られ、

玄関脇の花壇では季節の花が風に揺れる。

光を受け、花びらがそっと息をするように揺れるのが見えた。

 

 

流線形が美しい車がいつもと同じ位置に停まり、

夫が妻を乗せる準備をしている。

 


細身で背の高い夫は、知的さを感じさせるメガネをかけ、

仕草のひとつひとつから几帳面さが滲み出ていた。

 

小柄な妻が、ぎこちなく足を踏み入れる。

こげ茶色のロングヘアが風にそよぎ、丸みを帯びたシルエットは、

夫とは対照的に柔らかく、ほんのりと温もりを漂わせる。

 

 

夫はいつも手を添え、

シートベルトの位置を直すの。

 


「こうじゃないと危ないだろう」

と、小さな声で言うたび、妻は肩をすくめて笑う。


「そうね。ありがとう」


その笑顔は反射のように自然だが、

私の目には小鳥が檻の中で羽を広げられずにいる姿のように映ったわ。

 

 

夫は妻を、壊れやすいガラス細工を扱うように、

丁寧すぎるほど気を配っている。

 


素敵な光景とも思えるけれど、

私には違和感がぬぐえなかったの。

 


妻を大切にしているのとは少し違う――何とも言えないモヤモヤが胸に広がる。

 

 

庭の片隅では幼い子どもたちが自由に駆け回っていた。

転んで泣く声。

砂にまみれる小さな足。

枝を拾って投げる手。

 


誰も手を差し伸べない。

誰も気を留めない。

「自分で学べ」とでも言うように、放置されている。

 

 


男性の視線は庭にはなく、妻にだけ注がれていた。


砂まみれの子どもたちを車に乗せるのは、

庭に姿を現してから30分以上経ってからだった。

 

 

その矛盾。


妻を誰にも触れさせたくない独占欲と、

信頼できない不安が、

静かに家の中に漂っているように感じられたわ。

 

 

 

普段、夫は妻のメニュー選びにも口を出しているの。

ちょっと見慣れない光景で、驚いたわ。

 

リビングのテーブルに並んだ料理を見ては、
「これじゃ足りないんじゃないか」
「これだけでは健康に悪い気がする」


妻は小さく頷くだけ。

自分の意見を言うことはほとんどない。

 

そんな時、私はいつも屋根の上で、ただ見つめる。
干渉も口出しもせず、記録するだけ。

 

それしかできないというのが本当のところなのだけれど。

 

 


人間って不思議よね。

束縛する者もいれば、従順な者もいる。


その静かな均衡が、今日も夫婦を形作っているのだろう。

 

夕陽に照らされる窓の向こうで、妻の肩がわずかに揺れる。

 

小鳥の檻の中で羽を震わせるように。

 


庭で転ぶ子どもたちの声は、

自由を謳歌しているかのように響く。

 

 

矛盾した日常――
過保護で独占的、
子どもには放任――

 

 

その不思議な均衡を、私は今日も静かに見つめていた。

 

 


人の心には、誰も触れられない小さな檻があって、

ときどきその中で誰かが揺れている。

そんな気がして、つい見てしまうの。

 

 

これは、ある猫が見た、人間たちの記録。
『野良の目、街の奥。── うつされた人間模様。』
noteでは猫目線の別の物語を展開中。興味があれば、覗いてみてください。
[noteを読む]

 

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

そしてスターをつけてくださる皆さん、ありがとうございます。

言葉が紡げない時、

情景が描けなくなった時、

背中を押してもらえたように感じます。

またふらりと、覗きにきてもらえたらうれしいです🐾

 

 

 

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