『野良の目、街の奥。 ーうつされた人間模様ー』

野良猫の目線で人間模様を見つめる連作シリーズ 『野良の目、街の奥。 ーうつされた人間模様 ー』を連載中です。

第91話 小雨と無敵

小雨だ。

 

 

空は泣くほどでもなく、笑うほどでもない。


それでも地面は、確かに暗い色に変わりはじめている。

 

 

人の足取りは、途端に速くなる。

濡れているわけでもないのに、

濡れる未来を避けるように、人は急ぐ。

 

 

まだ何も起きていないうちから、

起きるかもしれない不快を先回りして嫌うのが、

人間らしい。

 

 

傘を三本も持って歩く人。

一本しかないのに、使わない人。

畳んだまま振り回す人もいれば、

さした瞬間から濡れている人もいる。

 

 

色んな人が行きかう。

 

肩をすぼめる人、

足元ばかりを見る人、

空を睨んで、ため息をつく人。

 

 

小雨は、人間の癖をよく映す。

ほんの数滴で、こんなにも忙しくなるのだから。

 

 

 

通りの向こうから、

ビニール袋を頭にかぶって歩く

おばあちゃんの姿が現れた。

 

白色で、しゃらりとも鳴らず、

どこにでもありそうなスーパーの袋。

 

 

それを、迷いなく頭にのせている。

恥ずかしさも、ためらいも、見当たらない。

歩き方が堂々としている。

 

アッパレね。

そう思わずにはいられない。

 

 

ここまでやってのけると、

もう無敵だと思う。

雨も、視線も、

たぶん気にしていない。

もしくは、楽しんでいる。

 

 

たぶん、勝ち方を知っている人の背中だ。

 

私は電柱の影から、軒下へ移動する。

ほんの数歩だけ、

庇の外に出る。

 

 

 

その先に、

雨が落ちていない場所があることを、

私は知っている。

 

 

人間は、傘で雨に勝とうとする。

私は、場所で雨を避ける。

 

どちらが正しいかは知らない。

ただ私は、

今日も濡れていない。

 

小雨は、

すべてを平等に濡らすふりをするけれど、

実は、ちゃんと逃げ道を残している。

 

それを知っているかどうかで、

歩き方はずいぶん変わる。

 

 

私は、濡れない場所を知っている。

そしてたぶん、

 

あのおばあちゃんも、

 

別のやり方でそれを知っている。

 

 

小雨は、弱い。

だからこそ、

生き方の差がよく見える。

 

これは、ある猫が見た、人間たちの記録。
『野良の目、街の奥。── うつされた人間模様。』

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。
またふらりと、覗きにきてくださいね🐾

 

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